彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.1

山口 心愛

憧れの選手に近づきたくて
モータースポーツの世界へ
目指すは、誰かに
夢を与えられる女性レーサー

山口 心愛

底抜けの明るさと大胆さを備えた
ピンクの髪の2024年度ルーキー

「ピンクの髪がデフォルトです! 」
そう言って、あははと屈託なく笑うのは144号ファーストガレージ大和設備工業VITAに乗る山口心愛選手(以下、心愛選手)。カラフルなヘアスタイルは彼女のトレードマーク。KYOJO CUPは2024年が初参戦だが、垣根をつくらない人柄も相まって遺憾無くその存在感を発揮している。現在、新潟国際自動車大学校(以下、GIA専門学校)に通いながらプロドライバーを志す。


「私、まだ四輪を勉強中で、公式レースも初めてで。たまたま学校の先輩がチームを紹介してくださって、ありがたいことにKYOJO CUPに出させてもらうことになったんです」


心愛選手がそれまで通っていた大学を中退し、モータースポーツが学べるGIA専門学校に入学したのは2023年のこと。その前年、ちょっと奇抜な女子大生の運命を変える大きな出会いがあった。

「もともと親がモータースポーツ好きで、親はカートをやらせたかったぽかったんですけど、肝心の私が全然興味がなくて。車に目覚めたのは18歳で免許を取ってからなんです。マニュアル免許を取ったのに、最初に買ってもらったのはレクサスで(笑)。それでも運転が楽しくて、あるとき宮城トヨタグループが主催する『MTGモーターフェスティバル』を見にスポーツランドSUGOへ出かけたんです。イベントに現役レーシングドライバーが十数人くらい来ていて、その中に一人だけ女性ドライバーがいらっしゃってて。 見つけた瞬間『あ、あの人カッコいい♡』とロックオンされちゃったんです」



小山美姫選手との出会いが
モータースポーツの扉を開く



その紅一点のドライバーこそが、小山美姫選手だった。小山選手といえば、国内トップカテゴリーであるスーパーGTに参戦している唯一の日本人女性。KYOJO CUPでは2017年、2018年の覇者でもある。心愛選手はSUGOのイベントで、その小山選手の運転するGRヤリスに同乗するという幸運に恵まれた。日本における女性レーシングドライバーの猛者とも知らずに。


「すごいレーサーだということも、名前さえも知りませんでした。それでももっと近づきたくて、プロドライバーに同乗できる企画でなんとか美姫さんの車に乗せてもらったんです。サーキットを走行する美姫さんは、ただカッコよくて心打たれました。それで助手席から質問しまくったんです。どうやってレーサーになったんですか?と。
そしたら美姫さんは『私は5歳からカートをやっていて、モータースポーツの専門学校へは行ってないけれど、ありがたくいろんな人のご縁でここまでこれた』と教えてくださったんです。この出来事をきっかけにモータースポーツの番組やサイトをいろいろ見はじめたら、レースをやりたい! 美姫さんになりたい!となったんです」

とはいえ、このときの心愛選手はまったくの素人。
「私は美姫さんのような経験も実績もないから、専門の学校に行かなきゃと思って。それで大学を辞めてこっちに全フリしました! 幸いに親もそんな私の決心を大歓迎してくれて。今、GIA専門学校のモータースポーツ科でいろいろ勉強しているところです」



エンジョイを土台に真剣に。
自分らしく高みを目指して



2023年、富士スピードウェイで行われたスーパーGTを心愛選手はメインスタンドから観戦した。そして完走した小山選手の勇姿を目の当たりにして、ますますその背中を追いたくなった。

「学校ではカートから始めて、フォーミュラなども少しずつ乗っていくんですが、私はまだ全然カートの段階で。KYOJO CUPに出ることになったものの、初心者マークを貼りたいくらいです。でもサーキットを走行してみたら本当に楽しくて! ドライビングテクニックはすっごい難しいし、頭でわかっていてもできないことばかりですが、今は“楽しい”が一番にきますね」


机上の学びはレースでのルールを含め、サーキットでの実践で大いに役に立っている。学生レーサーとして知識を積み上げ、技術の向上に余念がないが、憧れの小山選手は今はまだ雲の上だ。

「2023年のスーパーGTのレースで、美姫さんと一年ぶりにお会いしたんです。『学校に入りました!』と伝えたら『本当に入ったんだ』と驚かれました(笑)。図々しいですが、いつか美姫さんと一緒に戦えたり、一緒にチームが組めたら。そのためにも練習を重ねて、少しずつ上位の選手と戦えるようになれたら。今は天と地ほど差があるけど、いつかは超えたいです」

一人の女性レーサーとの出会いから、モータースポーツの世界へと人生の舵を切った心愛選手。大胆不敵なまでの行動力で、険しい道も高い山も切り拓いていくことだろう。