彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.11

保井舞

プロのレーシングドライバーに
才能を見いだされ
諦めた夢を探しに再び
モータースポーツの世界へ

保井舞

元自動車整備士でクリエイターで
二児のママ。3つの顔を持つレーサー


保井舞選手(以下、舞選手)は、さまざまな顔を持つ女性レーシングドライバーだ。自動車整備士だったキャリアを活かして今もカー用品店でタイヤ交換のアルバイトをし、YouTube『まいすた/Mai’s style with Garage』では車好きなフォロワーに向けて生配信も行う。さらに、プライベートでは小学1年生の男の子と幼稚園年中組の女の子のママでもある。


「自分で車のパーツを付けたグッズのデザインも好きで、カスタマイズに関しては基本的に一人でなんでもやっちゃいます。それを自分のYouTubeチャンネルで紹介しているんです。YouTubeは企画から編集、アップロードまですべて自分でやっています。」


子育てと家庭にYouTubeとレース、切り替えは難しくはないのだろかと思われがちだが、そんな懸念は無用だった。舞選手は器用にバランスをとりながら、どの状況も楽しんでいる。


「やっぱり主人のサポートがあっての今のレース活動だと思っています。子どもたちが去年のKYOJO CUPの最終戦を見に来てくれて、カッコよかった〜!と言ってくれのもすごく励みになりますね。正直、予定が詰まってしまって切り替えが難しいときもありますが、私は昔からレースが好きだったので『レースのために』と思って頑張れています。」


レースのために―舞選手がその思いに駆り立てられるのには理由があった。





子ども時代はカート一辺倒
道が断たれても変わらなかった想い




幼い頃はシルバニアファミリーよりもトミカを集めていたという舞選手。おもちゃ遊びが発展し、6歳でカートデビューを果たす。

「家のガレージにずっと大人用のレーシングカートが立てかけてあったんです。父が友人から譲り受けたものだったのですが、私がうるさいくらいに『あれに乗りたい!』と言っていたらしくて(笑)。根負けした父が、私が6歳の頃にキッズカートを買ってくれて、そこから練習に行くようになりました。初レースは小学2年生のときで初優勝、そこから三連勝しました! 子ども心にめっちゃうれしかったし、楽しかったですね。」


勝つ喜びを知った舞選手はカートに没頭。小学6年生で全日本ジュニア選手権(西地域)に1年間出場するまでに腕を上げた。ところが、もっとカートを極めたい意欲を新たにした矢先、舞選手の祖父の会社が経営難に陥る。レース活動を費用面でバックアップしてくれていたのは祖父だった。抗いようのない事情によって、舞選手のカート人生はプツンと断たれた。


「気持ちの整理がつかなくて、1年以上カートへの想いを引きずっていました。それこそ木金の放課後は荷物の積み込みなどの練習をして、土日は走行練習といった具合に、生活のすべてがカート中心にまわっていたので。乗れなくなって、自分は恵まれた環境にいたんだと気づかされました。」


カートへの想いと折り合いをつけながら、車好き女子であること変わることはなかった。舞選手は違う角度から自動車を攻めることにした。


「工業高校の機械科に進学しました。溶接や旋盤、鋳造といろんな体験を通してモノづくりにも興味が出たし、機械加工もできるようになったので、卒業後は自動車整備士になりました。」




幼い頃に身につけた技術と勘を携えて
車好き女子、サーキットへと舞い戻る




何もカートばかりがレースではない。自分の車は自分で整備すればいいし、遊ぶ程度だったら走行会に行けばいい―

運転免許を取得して自分の車を持つと、舞選手は自分なりの車の楽しみ方を見つけた。


2022年に愛車の一つのコペンで、D-sportというダイハツが主催するサーキット走行イベントに参加したんです。そのとき、スーパーGTをはじめ、さまざまなレースで表彰台に上っているレーシングドライバーの番場琢選手がインストラクターを務めていらっしゃって『うまいじゃん』と褒めていただいたのがめっちゃうれしくて! 『ここだけじゃもったいないよ』とも言ってくださって、KYOJO CUPのオーディションを教えていただいたんです。」


運命なのか偶然か。舞選手の目の前に突如、KYOJO CUPというレーサーへの道が開かれた。2023年度の参加者を募ったオーディションでは落選したが、TOKEN GO PROJECTという企画からのドライバー推薦枠で、なんとか憧れのシートを勝ち取った。


「去年はバトルで勝てないレーサーだったんです。今年は技術面でも気持ちの上でも負けない競争女子でいたいと思います。」

かつて一緒に走っていた人がレーサーとして有名になっていく姿を羨ましく思った日もあった。舞選手は今、子どもたちにサーキットで輝いている姿を見せながら、諦めなければ夢は叶うことを体現し続ける。