INTERVIEW
Vol.15
樋渡まい
カートデビューは30代
運とセンスを味方に
モータースポーツ界で
希望の花を咲かせて
INTERVIEW
Vol.15
カートデビューは30代
運とセンスを味方に
モータースポーツ界で
希望の花を咲かせて
身長172cmと恵まれた体躯でカッコよくレーシングスーツを着こなす、樋渡まい選手(以下、まい選手)。35歳でカートデビューした、遅れてきたルーキーだ。
「カートを始めたきっかけは義理の母なんです。義母はドリフトのイベントを見に行ったり、自分でも走りにいくくらいの車好きで。平塚のレンタルカート場へ一緒に行こうと何度も誘われていたんですが、『怖いから嫌だ』とずっと断っていたんです。ところが3年ほど前のお正月休みに、思い立って主人と行ってみたら意外と楽しくて。そこからは一人で毎週のように通い続けるようになりました。」
乗るごとにベストタイムが縮まっていくことが爽快で、まい選手はあっという間に夢中になった。そんなさなか、思わぬお声が掛かる。
「平塚のカート場に来ていたお客さんの中に本格的なレーシングカートをやっている方がいて、乗ってみないかと誘われたんです。それで筑波サーキットや新東京サーキットまで遠征し出したら、ますます楽しくなって。頻繁に乗るならレンタルよりも買った方がいいだろうと、中古のマシンを安価で購入しました。」
Myカートを手に入れ、次はいよいよレース!というタイミングで、まい選手にさらなるチャンスが舞い込んだ。
「サーキットで、『女性ドライバーを探しているんですが、ちょっとオーディション受けてみませんか?』と昨年の所属チームのスタッフさんからお声を掛けていただいて。それがKYOJO CUPのオーディションだったんです。」
カートを始めてわずか2年。怒涛の展開である。
「VITAに乗ったことないし、乗ってみたいな」
そんなラフな気持ちでオーディションに臨んでみたところ、レース経験が一切なかったにも関わらず合格。まい選手は幸運にもKYOJO CUPのシートを手に入れた。
「KYOJO CUPにはカート時代から知り合いだった選手もたくさんいて。みなさん年下だったりするんですが、モータースポーツ歴でいえば私が一番ペーペーで(笑)。速いなぁ、上手いなぁと圧倒されることばかりです。」
カート歴1年で思ってもみなかった四輪への転向だったが、カートで体得した感覚はVITAにそのまま応用できた。
「マシンの感覚は違いますが、スピード感覚的にはカートの方が速いのもあって、VITAの方がコースが広い分、速度に対する恐怖はなかったですね。コーナリングの限界シャフトとかもカートの方が速いですし、Gのかかり方もカートの方が身体にきますから。」
テクニックは自己流で身につけた。キャリアの浅さを感じさせないのは、まい選手が醸し出す落ち着いた雰囲気にもある。職業を尋ねると会社役員とのこと。前職の会計事務所で培った実績を活かし、経理を担っているそうだ。精度の高さを追い求める点において、仕事もレースも手を抜かない。
「レースは割と冷静に乗っている方だと思います。いけるな、と思ったら絶対離れないですし、いけるかいけないかわからなくても飛び込んだりもします。他の選手と同じように、レースとなったら常にベストは尽くします。」
KYOJO CUPに参戦するようになって、まい選手はチームプレイの力を日々実感している。
「四輪にステップアップして感じたのは、カーレースはワンチームだということです。ドライバーだけじゃなく、メカニックさんがいて、マネージャーさんがいて、監督がいる。マシンのセッティングもドライバーも一緒になってメカニックさんとすごく話し合いますし、サーキットへ入る前からセットアップの打ち合わせも綿密で。テスト走行後の感想も反映したりと、四輪ならではの仕事感がたまらないですね。」
2024年は静岡の老舗レーシングガレージ「RSS」に所属している。「RSS」はエンジンチューニングショップとしてスタートし、数々の名だたるドライバーを輩出してきたチームで、当然ながらメカニックもプロ集団だ。看板選手として、KYOJO CUPでトップを競い合う翁長実希選手が名を連ね、まい選手も気合いが入る。
「去年のKYOJO CUPでは22台中10番手、11番手とちょうど真ん中でイケていたので、今年はもっと上位を狙って、シングルには絶対入りたいですね。」
開幕戦直前に右足の薬指を骨折。ふと「後厄のせいかも」と考え、厄落としの意味を込めてロングヘアーをばっさりカットし第1戦に挑んだ。今年はKYOJO CUP全6戦の他、マツダSUPER耐久シリーズやロードスターパーティーレースにも参戦予定だ。まい選手は貪欲にレースに挑戦しながら、1戦ごとに自分の走りを確立していく。