彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.17

斎藤愛未

モータースポーツが女性も
職業として活躍できる世界に
自分のために頑張ることが
後進の未来につながる

斎藤愛未

レーシングカートで夢を叶え
次なる目標はプロドライバー


2024年5月のKYOJO CUP第一戦。斎藤 愛未選手(以下、愛未選手)は公式予選のタイムバトルを制し、参戦5年目で初のポールポジションを掴んだ。KYOJO CUPではシリーズランキング3位を2度獲得。トップ争いの常連選手だ。


「5歳くらいの頃、母が遊園地だと勘違いして神奈川県にある中井インターサーキットへ連れていってくれたんです。そこで体験版のキッズカートに乗ったら楽しくて。帰ってからも、『もう1回行きたい!』という感じで、それが何回も続くうちに本格的に始めることになりました。」


両親も兄弟もモータースポーツにまったく関心がなく、スーパーGTも知らなかった女の子がレーシングカートに没頭。愛未選手はキッズ、ジュニアと段階を踏み、どんどん頭角を現していった。


「全日本カート選手権(以下、全日本カート)が国内のカートレースの中で一番上のカテゴリーで。このレースに出るまでは絶対にカートを辞めないって自分の中で決めていました。2021年にようやく夢が叶って、その全日本カートの中でも最高峰のOKクラスで出場できたんです。台数も多く男性ドライバーしかいなかったので、女性で10位以内に入るのは難しいだろうと言われていたんですけど、熱意が通じて成績を出すことができました。」


この選手権で愛未選手は女性史上最高位の9位を獲得。2021年は、レーシングカートで世界最高賞金となる1000万円を懸けたHYPER KART JAPANにも出場し、見事レディース賞に輝き100万円を手にした。今度はプロの道へ――愛未選手は次なる目標を定めた。



賞金はモチベーションであり軍資金
より高みを目指し、憧れの先輩のもとへ





プロとアマチュアの違いに定義はいろいろあるが、職業として報酬を得ているかどうかもその一つだ。

「私たちはレースをもちろん仕事としてやりたいので、そうなると賞金はお給料的な位置づけになることもあって。やはり賞金額は大きければ大きいほど、モチベーションにつながります。レースに出場するということは、タイヤ代、走行費、いろいろな費用が発生します。自分で出資しなければいけない場面もありますから、賞金を稼いでおくとその蓄えになるんです。」


だからこそ、レースへの出場はスポンサーが欠かせない。愛未選手には秋葉原にあるレーシングシミュレーターショップ「D.D.R」が2022年からスポンサードしており、社長の後押しのもとKYOJO CUPに参戦している。


「KYOJOには2020年から出ていますが、最初の1〜2年はあまり練習もできず、順位もパッとしませんでした。そんなときシミュレーターの練習に通っていたD.D.Rの社長さんが『成績出すために一緒にがんばろう』と言ってくださって。それで実車の練習もできるようになりました。」


スポンサーに恩返しするためにも、もっと高みを目指さねば。その実現のため、2024年に愛未選手はTeam Mに移籍した。


「Team Mは去年のチャンピオンチームで、監督はKYOJOで何度も表彰台に上がっている三浦愛さんです。愛さんはカートのときから憧れの先輩で、フォーミュラに行かれても女性で先陣を切っていらっしゃって。そんな愛さんのもとでもっと自分のドライビングも高めたいですし、車づくりも学びたくて弟子入りさせてもらいました(笑)」




モータースポーツ界の未来を
プロドライバーの夫と思い描いて





プライベートでは2022年にレーシングドライバーの坪井翔選手(以下、坪井選手)と結婚。坪井選手は全日本フォーミュラ選手権で活躍する国内屈指のドライバーで、幼少期はともにスピードを競い合ったカート仲間でもある。


「カート時代は一緒にレースに出たこともあります。小学5年生の頃、私が勝って彼が大泣きしたり、私が負けたり。その頃は人生の伴侶になるなんて想像もしていませんでした(笑)。スポーツには挫折がつきものですが、そういうとき言葉にしなくても互いに分かり合えるのは強みかなと思います。」


2021年のHYPER KART JAPANには坪井選手も参戦し、1位を獲得。まだ結婚前だったがカップルともに優勝を果たした。2023年にはFCR-VITAのMIXジェンダークラスに夫婦ペアで参戦し、クラス優勝も飾った。愛未選手は結婚後、夫婦でモータースポーツ界を盛り上げていくことに貢献したいと強く思うようになったという。


「モータースポーツの先にあるのは自分たちの未来でもあるので、子どもたちの裾野を広げるにはどうすべきかとか、夫とよく話しています。今はまだモータースポーツは男女混走ですが、他のスポーツと同様に区別され、女性も職業として活躍できる世界にしていきたいです。まずは自分のために頑張ることが、ひいては後進につながると思っています。」