彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.20

岩岡万梨恵

伝説の女性レーサー
ダニカ・パトリックに憧れて
いくつもの山を乗り越え
KYOJO CUPの舞台へ

岩岡万梨恵

2008年のインディジャパンが
一人の女の子の人生を変えた



岩岡万梨恵選手(以下、万梨恵選手)は2022年からKYOJO CUPにフル参戦。レースデビューは23歳と決して早い方ではないが、レースへの入り口はドラマティックだった。


「中学2年生のとき、レース好きの父に連れられてツインリンクもてぎ(現モビリティリゾートもてぎ)にインディ・ジャパンを観に行きました。そこにダニカ・パトリックさんという選手がアメリカから参戦していました。25台ほどのトップ集団の中、たった一人の女性ドライバーが第一線で走っていて。すごくカッコよくて、今でも目に焼きついています。そのとき、女性でもレースができるんだと知って、この世界に憧れるようになりました。」


サーキットでの光景に魂を揺さぶられ、万梨恵選手はすぐレーサーになるための方法を調べた。

「カートで経験を積まなきゃいけないけど、サーキットへ一人で行けないとか、費用がかかることが分かって、父からも無理だろうと言われて。レースではなく、小学生から打ち込んできた器械体操を頑張ることにしました。」


モータースポーツは、憧れても手の届かない世界――それが中学生の万梨恵選手の現実だった。

万梨恵選手が観戦した2年後の2008年、ダニカ・パトリックはもてぎの同じコースで優勝を果たす。女性レーサーのインディカーでの優勝は史上初の快挙で、モータースポーツ界の伝説となった。




器械体操に打ち込んだ学生時代
F1を見て諦めていた夢、再燃





「器械体操は小学2年生から中学3年生まで地域のクラブに通って、高校は都立の体操部強豪校へ進学しました。インターハイは逃しましたが大会ではたびたび優勝して、体育大学でも続けていましたね。負けないメンタルや自分を高めていくことは、器械体操に打ち込みながら培ったと思います。」


しかし、大学入学後から万梨恵選手は器械体操に打ち込めない自分に気づき始めていた。

「器械体操に対してやりきった感を抱くようになってしまって。そんなとき父に誘われ、久しぶりにF1レースを見に行ったんです。サーキットを駆け抜けるフォーミュラカーを見ていたら、蓋をしていた気持ちがむくむく顔を出してきて『やっぱ私、レーサーになりたい!』と。いろいろ環境とかのせいにして諦めてきた夢でしたが、誰に何を言われてもレースだけは自分がやりきったと思えるぐらいがんばってみようかなって。」


このときを機に、二度と夢を諦めないという強い気持ちで万梨恵選手は大学を退学。モータースポーツの専門学校へ編入した。ところが万梨恵選手の目の前に、再び行く手を阻む壁が現れる。


「編入した1年後に専門学校が倒産してしまって。また夢が絶たれそうになったんですが、程なくマツダが自動車業界で活躍できる人材育成を目的とした『マツダ・ウィメン・イン・モータースポーツ・プロジェクト(以下、マツダウィメンプロジェクト)』を発足したんです。そこの1期生として合格できて、ようやく学びの場を得ることができました。」




進化し続けるKYOJO CUPで
ファンとチームとともに戦う





マツダウィメンプロジェクトでの学びはとても実践的だった。万梨恵選手は訓練を重ねながら、スラロームやブレーキングといった技術を習得し、タイヤやエンジンの理論的な動きを体感するとすべてをスポンジのように吸収していく。


「3年でプロジェクトを卒業して、そこからは自分で乗れるレースを探してなんとかシードを獲得していきました。レースは男性が中心のスポーツなので、『男子に勝ってやる!』と常に意気込んでいましたね。KYOJOの存在も知っていましたが、『女子の中で勝ってもな』みたいな気持ちでいたんです。そんなとき、スポンサーさんからきっかけをいただき、女性の中で勝てなければ男性ドライバーにも勝てないと考え方を改めて。そこからKYOJOに本気になりました。」


モータースポーツは男性のものというイメージが根強く、ドライバー数も実力もまだまだ平等には程遠い。それでも万梨恵選手は女性だけのレースだからこその面白みを見出している。


「KYOJOに初参戦した頃、練習なしで本番を迎えても結構上位に行けたんです。それが年々難しくなってきたのはメンバーの実力が全体的に底上げしているからなんですよね。その現状に、余計に勝ちたい気持ちに拍車がかかります(笑)」


高校時代の体操部のスローガン「絶対絶対あきらめない」は、今もなお万梨恵選手の心の支えだ。応援してくださるファンの方々や、メカニックをはじめとしたチームの仲間、そしてスポンサーの方々。たくさんの人とつながって勝った嬉しさや負けた悔しさを分かち合える喜びをパワーに、万梨恵選手は今期もトップ集団に食らいついていく。