彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.22

山本龍

サーキットを走る没入感に魅了され
この世界へ
自身の成長を追求しながら
“攻め”の姿勢で挑み続ける

山本龍

趣味の領域を超えて
バイクで欧州のサーキットへ



「龍」というインパクトある名は、当然ながらレーシングネーム。山本龍選手(以下、龍選手)はバリバリのキャリアウーマンとして社会で活躍しながら、モータースポーツ界へとやってきた異色のドライバーだ。カート経験はなく、サーキットデビューは20歳を過ぎてから。それも四輪ではなく二輪でのスタートだった。


「就職してすぐ、親に内緒で普通自動二輪免許を取って給料を貯めてバイクを買いました。配属先の業務がデリケートな案件が多く、寝ている間も仕事のことを考えるといった生活の中で、読書や映画鑑賞では脳内がリセットできなかったんです。仕事のことをすっかり忘れて、それだけに集中できるものをと考えたとき、バイクにたどり着きました。」


群れて走るツーリングより、やるならとことん走ってみたい――その思いに駆られ、龍選手は休みのたびにミニサーキットへ出かけるようになった。


「週末になるとツインリンクもてぎ(現モビリティリゾートもてぎ)や筑波サーキットにバイクで通っていましたね。とにかくサーキットを走ることが爽快で、他では得難い没入感がたまりませんでした。」


ロードレースにはエントリーこそしなかったが、サーキット走行はモータースポーツの愉しみを十二分に教えてくれた。そんなとき、龍選手にヨーロッパ支店への転勤辞令が下りた。


「ルクセンブルクで1年、ロンドンで1年勤務したんですが、まず到着したその日に現地でバイクを買いました。それでヨーロッパの主要サーキットをすべて制覇しよう!と(笑)。ドイツのニュルブルクリンク、スペインのヘレス・サーキット、フランスのポール・リカール…あちらこちらへ全部自走で行って、走行会に参加して。一人でサーキットへ行くアジア人女性なんていませんから、現地ではいろんな人が助けてくれましたね。」




新たな刺激を追い求めて
ロードスターカップに参戦!





思い立ったら即行動。人一倍バイタリティのある龍選手だが、ヨーロッパでの体験はあまりにも鮮烈すぎた。帰国後のサーキット走行に物足りなさを感じている自分がいた。


「ヨーロッパでのバイクサーキットざんまいが楽しすぎたのか、何か刺激がない感じになってしまって。それでバイクを降りてトライアスロンを始めたんです。全国各地の大会に出場するにあたってトライアスロンバイクが積めるような車が必要になり、どうせならサーキット走行もできる車をと買い求めたのがマツダのロードスターでした。」


ところが3年後、体力に限界が訪れる。龍選手は自身の身体を駆使してチャレンジするトライアスロンより、マシンを操作するモータースポーツのほうが長く続けられると考え、四輪への転向を決めた。


「ロードスターはオープンカーなので車室内にロールケージという金属フレームを取り付けなければならないんですよね。その装着をお願いしたエンジニアリング会社がロードスターカップをサポートしていて。『ケージを入れるならレースに出てみれば?』と言われたのがきっかけで出場する流れになったんです。」


ロードスターカップは、富士スピードウェイを舞台に開催されるワンメイクレース。長い歴史を誇るこのアマチュアレースに、龍選手は個人で参戦した。


「最初はゼッケンナンバーも貼らずにピットインしようとしたんです。『ゼッケンは?』と聞かれ、慌ててシートにマジックで描いて。周りが衝撃を受けていました(笑)。」




VITAを買ってKYOJO CUPへ
もう一段上のドライビングを目指す





龍選手の豪快な人柄を表すエピソードはこれだけに止まらない。2017年、KYOJO CUPに参戦することを決めると、即座にVITAを購入した。


「KYOJOの事務局に電話してVITAはどうやって買えるのかと尋ねたら、三重県の鈴鹿にあるウエストレーシングカーズで購入できると教えられ、すぐ工場へ見に行きました。購入後、KYOJO のオーガナイザーの関谷正徳さんが『普通はレースやチームを通して買うものだし、メンテナンスしてもらうメカニックも必要だから』と驚かれていました(笑)。」


初参戦した2017年度は周回遅れでフィニッシュするレベルだったが、チームのサポートのもとでここ数年はシングルに入るまでに上達。自分一人のときとは違い、親身になって指導してくれるチームの有り難みが身に染みる。


「若いときは1年前にできなかったことが1年後にはできるようになるといった実感がありましたが、年を重ねると大体のことができるようになって『できた!』が少なくなるんですよね。レースを通して何かが上手くなっていくとか、成長している自分を感じたい。ドライバーとしてもう一段上のレベルで走れるようになりたいですね。」


今まで通りの走りで勝負をせず、龍選手は攻めの姿勢で挑み続ける。