INTERVIEW
Vol.25
翁長実希
「誰よりも速く走れる自信があったから」
レーサーの道へ
威風堂々、絶対的女王の風格で
北米のレースにも挑む
INTERVIEW
Vol.25
「誰よりも速く走れる自信があったから」
レーサーの道へ
威風堂々、絶対的女王の風格で
北米のレースにも挑む
KYOJO CUP 2024の開幕戦では予選、決勝ともに1位。2022年度のシリーズチャンピオンである翁長実希選手(以下、実希選手)はKYOJOが始まって以来、表彰台に乗る回数は最多数を誇る。
「私がKYOJOに出る思いとしては、やはり女性レーサーの一番を決める大会なのでその座にい続けたいと思いますね。」
さらりと語ったコメントに、微塵の嫌味もない。そこにあるのは女王としての確固たる自信だ。強さの理由を探っていくと、生まれた環境にたどり着いた。
「沖縄出身なんですが、実家はサーキット場を経営していて4歳からカートに乗っていたんです。幼い頃からレースが身近にあり、競争して勝つことも好きでした(笑)。でもそれ以上に、一緒に走るライバルたちや、メカニックをはじめとしたスタッフの方々と過ごす時間が大好きで。それは今も変わらないです。」
勝負強さとともにチームを愛するスピリットも培われていった。昨年度より、所属チームを運営するRSSに勤務する社員ドライバーとなり、実希選手はレースのビハインドにも一層思いを馳せるようになった。
「私が乗るためにこれだけの人たちが熱い思いを持って取り組んでくださっている。ドライバーは走るときは一人ですが、そこまでにいろんな人たちの後押しやサポートがあって走れているんですよね。その思いをしっかり乗せて、今年は自信を持ってRSSドライバーとして走れています。」
全幅の信頼をおける仲間に恵まれたことも強さの秘密だ。それでも、実希選手が常に強気なわけではない。レースは自分自身との戦いだからこそ、内省することもしょっちゅうあると言う。
「結果が出なかったりミスするたびに、本当に落ち込んじゃうんです。ここまでやったのになぜだろうって。すごく悔しくて、そのたびに思い知らされるんです。勝ちたいんだな私、そのためにレースに出ているんだって。自分が本当にやりたいことなのか試される壁が来ているんだな、と思うようにしています。」
弱さも包み隠さずさらけ出す。そんな人間味ある姿が、実希選手をより魅力的に輝かせる。表彰台を目指しながら、自分に足りないものは何かと考えないことはない。
「レースってすごく様々な要素があって。それこそマシンも仕上がっていかなければいけないし、速く走るために自分自身のレベルアップも欠かせない。そのためには環境づくりが必須で、一緒に戦う仲間も見つけなければいけません。去年、一年間RSSで学ばせていただいたことで、レーシングドライバーは走るだけじゃなくて幅広い能力が必要だと分かりました。でも難しいです、とっても。だからレースってやめられないですよね。」
実希選手は自身が活躍する舞台であるKYOJO CUPに対しても、月並みではない想いを抱く。
「今、KYOJOは台数も増え、レースとしてもすごく盛り上がりを魅せています。実際、選手たちのレベルも上がってきているので、一人ひとりがプロとして注目されるよう、もっとより良いレースを私たちも創っていかなければいけないという想いが強くなっています。参戦するチームがさらに増え、大会がもっと大きく成長して、女性レーシングドライバーが職となるレベルまで向上してほしいです。」
ここ数年は、レースで速く走ることに対する意義にも意識が向き始めた。
「自分がやりたくて出たレースで勝って、一体それで何ができるんだ?と思ったことがあって。そんな中でニュースで流れる自動車事故を見るたび、レースを生業にする私が何か運転について伝えられることがないかと考え始めたんです。モータースポーツって究極の安全運転だと私は思っていて。レースには競争相手があり、ときにはクラッシュもするので伝わりにくさはありますが、その限界付近でいかに速く走行して安全にチェッカーフラッグまでマシンを運ぶかということを選手たちは日々突き詰めていて。だからこそ、いろんな人の身近にある自動車運転が、安全に行えることを伝えられる存在になれたら。それで1件でも自動車事故を減らすことができたら、レーシングドライバーが本当に価値のある職になると思うんです。」
表彰台の遥か先に「安全な車社会」を見据える実希選手。これまでの功績が認められ、2024年は5月と9月、HATTORI MOTORSPORTSとのスカラシップ制度で北米で開催されるTOYOTA GAZOO Racing GR CUP NORTH AMERICA(通称GRカップ)にスポット参戦。実希選手は日本人女性ドライバーの代表として、その実力を世界の舞台へ披露しにいく。