INTERVIEW
Vol.0
関谷正徳
【番外編】
女性ドライバーが活躍できる場と
道筋を切り拓き
“運転技術競争”を
社会で価値のあるスポーツに
INTERVIEW
Vol.0
【番外編】
女性ドライバーが活躍できる場と
道筋を切り拓き
“運転技術競争”を
社会で価値のあるスポーツに
ル・マン24時間レースにおける日本人初の優勝ドライバーであり、現役時代は数々のトップカテゴリーでその名を轟かせた関谷正徳氏。引退後も日本モータースポーツ界の重鎮として精力的に監督業やドライバーの育成に携わり、2013年〜は「インタープロトシリーズ」「KYOJO CUP」を設立。車の性能ばかりに注目が集まりがちだったレースに一石を投じ、人を主役に構えたモータースポーツを提唱している。
「自動車そのものの速さを魅せたのが今までのレースでした。レーシングドライバーも確かにカッコいいんですが、その役目は車の速さを引き出すことで、フォーカスされるのはどうしても車のほうだったんです。時代は変わり自動車メーカーは速さの追求から性能開発へと移行し、電気自動車、水素エンジン、カーボンニュートラルと新しい技術が次々と誕生していますよね。
自動車競争が次のフェーズに入ったことで、これからどのようにモータースポーツを楽しむのか? となったとき、車を操るドライビングアスリートが運転技術をスポーツとして見せる時代になるというのが、僕の考えです。」
レースをモータースポーツとして見せることで、そのスポーツをがんばる人の価値も評価される。一般的なスポーツ同様、社会から憧れられるようなポジションの構築が今進まねばならない道だと関谷氏は語る。そうした中で、女性レーサーの地位向上も大きなテーマだ。
「男性レーサーの場合は比較的に技術も成熟し、たとえばスーパーGTに乗ればトヨタと契約できるといった憧れる環境があるのですが、女性レーサーにはそれが全く見えなかった。パトリック・ダニカやJUJU(野田樹潤)選手といった新旧のスター選手もいますが、女性が活躍するにはまだまだハードルは高いわけです。
女子プロゴルフは今でこそ地上波で放送される押しも押されもせぬ人気スポーツですが、20年前は男性ゴルファーが中心でした。KYOJO の選手たちもポテンシャルを磨いていけば、20年後にその可能性があるということです。」
世間の人々の後押しや子どもたちの夢や目標になることも不可欠だ。潜在的に車好きな子どもは確実にいる。KYOJO CUPが広く周知されていくことで、車に興味を持つ女の子が目標を持つきっかけになればと、関谷氏の未来図はハッキリとした輪郭を描く。
「成熟していくにはもう少し時間がかかるかもしれません。でもやらなければ始まらないんで。KYOJOも1からのスタートでしたし、その1も決して完璧なものではなかった。ですがきっと20年後には常識になっている。そうすると何ができるかと言ったら、日本に新しい自動車文化を創ることができるんです。日本はこれだけの自動車会社を有し、格式あるサーキットが7つもあるわけですから、世界中の女の子が憧れるモータースポーツ環境を創りたいですよね。」
KYOJO CUPはシーズン8年目を迎え、関谷氏が有言実行してきたことが少しずつ形になってきた。
「エントリー人数は増えていますが、技術レベルはまだ未熟です。世界には速い女性レーサーはたくさんいますから、身体能力のレベルもメンタル強化も課題です。KYOJOの選手は絶対勝ちたい人がいる中で、楽しめればいいという選手もいる。まだ同じ方向が向けていないんですね。チャンピオンを獲得した後、KYOJOは卒業と次のカテゴリーへと移ってしまう選手もいます。負けるのが嫌なのはわかるんですが、僕的にはそれはアスリートじゃないよねと思ってしまうわけです。」
時には苦言を呈すのも、すべては女性レーサーの地位向上のためだ。KYOJO CUPという価値を選手たち自身が見出すことで、社会の評価につながっていく。
KYOJO CUPでは2017年の発足以来、使用してきたVITA-01から、2025年度、フォーミュラマシンへと変更を図る。車両名はKC-MG01。イコールコンディションをキープするため、メンテナンスも含めて全車両をKYOJO CUP事務局で管理し、レースウイーク時に各チームへと貸し出すという徹底ぶりだ。
「フォーミュラは軽量で強固なマシンです。安全性も上がり、他のカテゴリーに挑戦する際に役立つスキルも身につけやすい。彼女たちが技術を習得すれば、KYOJOをがんばった先にスーパーGTやルマンが待っているという可能性が提示できるわけです。新しくチャレンジする女性レーサー向けて、VITAシリーズも計画しています。加えれば、カート業界にもKYOJOクラスを創りたいですね。分母が増えれば全体的なスキルが上がっていきます。競争女子の力を借りてモータースポーツ全体を引き上げるのが、僕の最大の目標です。」
そう語って、関谷氏は目を細めた。進化し続けるKYOJO CUPが、女性レーサーの未来を創る。