彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.4

関あゆみ

目標は北海道の女性ドライバー
人口を増やすこと!
北の大地に育まれた芯の強さで
夢の舞台にチャレンジ

関あゆみ

医療従事者として仕事に邁進しつつ
四輪レースにのめり込んで


「昨日は夜勤明けで、そのまま新千歳空港からこっちへ飛んできました!」


普段は北海道内の総合病院で臨床工学技士として勤務する関あゆみ選手(以下、あゆみ選手)。KYOJO CUP2024の開幕戦に出場するため、多忙なスケジュールを調整して富士スピードウェイ入りした。その口調は軽やかで、移動の疲れを微塵も感じさせない。


「臨床工学技士は、レントゲン技師や放射線技師と同じように医療をサポートする病院のメディカルスタッフです。心臓を止めて行うオペの際に人工心肺という特殊な機械を操作したり、腎臓に疾患を抱えている方への人工透析やペースメーカー、内視鏡といった治療に携わっています。結構コアな職業でやりがいを感じています。」


そんなあゆみ選手をモータースポーツの世界へと導いたのは、アニメだった。

「もともとスポーツカーが好きで愛車に選んだのもロードスターで。あるとき、走り屋をテーマにした『頭文字(イニシャル)D』を見るようになってから、峠走りの世界にのめり込んでいました。そんな私を友人が十勝スピードウェイに連れていってくれて、VITAというマシンを初めて見て『カッコいい!』と思ったのをきっかけに、レースの世界を覗きたくなりました。」


十勝スピードウェイは、北海道内唯一の国際自動車連盟(FIA)公認のサーキット。北海道河西郡更別村にある日本最北のサーキットで、十勝24時間耐久レースをはじめ、さまざまな四輪レースが開催されている。2022年から、あゆみ選手はここをホームとしてレース経験を積んでいく。





十勝スピードウェイで技術を磨き
本州のKYOJO CUPで実力&運試し




あゆみ選手の初舞台は、2022年の北海道クラブマンカップレース(以下、クラブマンカップ)。VITA-01の第4、第5戦だった。日本各地のJAF公認のサーキットで開催されている地方レースの一つで、プロからアマまで参戦し毎回ホットなバトルが繰り広げられている。


2023年のクラブマンカップの最終戦で、男性レーシングドライバーたちに混ざって自分の中でもベストな順位に入れたんです! 1位の選手とはコンマ7秒差、ずっと背中を追いかけてきたチームリーダーとの差もコンマ2秒まで近づけることができ、タイム的にも良いものが出たのが素直にうれしかったです。」


自身の成長に手応えを感じ、あゆみ選手はさらなる高みを目指す。そして、彼女が2024年度の戦いの舞台に白羽の矢を立てたのがKYOJO CUPだった。


「十勝スピードウェイのレースに出場しながら、実感するのは女性レーシングドライバーの少なさでした。同性のライバルと競り合って互いに切磋琢磨できたら、もっと速くなれるような気がして。そんなときレース仲間から、本州にはKYOJO CUPっていう女性だけのレースがあるからやってみれば?とサラッと言われて。ネット検索したら『やりたい!』になって、もうそれしか考えられなくなりました(笑)」


北海道から移動する肉体的負担やレース前に体調を整える時間、現地での練習不足と、他の選手と比べて不利な点を上げたらキリがない。それを補うように、あゆみ選手は仕事終わりにチームが保有するレーシングシミュレーターで練習を重ね、夢に見たレースへ挑む。




車好き女子からレーサーになった私が
誰かがレースを始めるきっかけになれたら




いざ迎えたKYOJO CUP開幕戦では、練習走行ですでに感じるところが多々あった。


「富士スピードウェイは初めてのコースなので、練習でちょっと恐怖心が勝ってしまいました。みなさん、やっぱり上手いです。ハイレベルだなと思いました。みなさん、お話するときの優しい雰囲気を切り替え、サーキットでは闘争心を燃やす。あの中で、少しでも上のポジションでチェッカーを受けられるよう頑張ります!」


臨床工学技士の仕事を全うしつつレースへの参戦を両立すること自体、決して容易ではないだろう。だが、あゆみ選手は「持ち前の諦めの悪さでなんとか調整しました!」と、朗らかに笑う。

そして距離や仕事の両立といったハンデを物ともせず、2024年度開幕戦の結果は予選P16/28、決勝P14/28と中間層に食い込んだ。


「私は幼少期からレーシングカートに乗っていたわけでもない、ただの車好き女子でした。そんな私が23歳からレースの世界へ飛び込んでも、しっかり戦えるという姿を少しでも多くの女性に見てもらいたいですし、それがレースを始めるきっかけになれたら。十勝スピードウェイは私を含めてレースに参加しているのは5人とかなので、まずは北海道の女性ドライバーの人口を少しでも増やすことが、私の目標であり夢です。」


ブレない覚悟を心に抱き、日本で唯一の女性だけのレースの頂点を目指す。